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25話 追い込み猟

Auteur: ニゲル
last update Dernière mise à jour: 2025-05-02 22:06:13

[えーと、今ある反応の方に行けばいいんだよね?]

[そうだ。そこに俺が居る。近くの電柱に白いタオルを巻いといたからすぐに分かるはずだ]

土曜日の夜遅く。私とイリオは夜の街を颯爽と駆けていた。

昨日イクテュスと戦った田んぼ道を走っているが本当に人が居ない。

「暗いから逸れないようにね。ちゃんとアタシのあとついて来るのよ」

「うん分かってる。目印がないから逸れたら大変だしね」

人が居ないだけではなくここは電灯があまりない。おかげで偶に通る車から闇に潜んで隠れられるが少し先は真っ黒だ。

「あ! あったあそこじゃない?」

私は聞いてあったタオルが巻かれた電柱を見つけ指差す。

「ん〜と……あっ、あれね! もうノーブルとアナテマも来てる……」

「えっ!? もしかしてまた戦い始めたり……」

「いやそんなことはないみたいだけど……とにかく行ってみましょう」

私達は二人が居る道路から死角になっている田んぼの所に入り屈んで潜む。

「やぁ来てくれたね二人とも。今回の相手は数が増えるタイプだから心強いよ」

つい先日あんな姿を見せバチバチだったのに、ノーブルは何事もなかったかのように話しかけてくる。アナテマも一瞬こちらに視線を向けるがブローチを取り上げようとする気配はない。

「全員集まったみたいだな……」

田んぼの稲の間からキュアリンがひょこりと姿を現す。

「リンカルは別の場所で準備してくれている。とりあえずお前達はしばらくここで待機。反応が出たらすぐにそこに向かってくれ」

「深入りはしないけど、その作戦は本当に上手くいくのかしら? 信じてないわけじゃないけど都合が良いというか……」

キュアリン自体は信頼しているが、その作戦自体は正直半信半疑だ。

「とにかく俺を信じ……」

脳内に信号が送られる。いつもキュアリンが送ってくれるものだ。

場所はここからそう遠くなく人の走る程の速度で移動している。

「これに行けばいいんだよね!?」

「そうだ! 配信はタイミングを見計らって開始させる! 後は頼んだぞ!」

私達四人は一斉に駆け出して反応のある方向に走り出す。経験からか先輩二人の方が速く先行する。

「追いついたっ! あそこだ!」

ノーブルが光の粒を高速で飛ばしイクテュスにくっつけ目立たせる。奴は小学生くらいの男の子を抱いて
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